ミュシャからムハへ➖東京の国立新美術館で開催中のムハ(ミュシャ)展、一般によく知られているアールヌーヴォーの画家としての固定したイメージが少し変わるかもしれない、興味深い展覧会でした。


アールヌーヴォーを代表する画家・グラフィックデザイナーで、一般的にフランス語読みでミュシャと呼ばれているムハは、現在のチェコ出身。本展の目玉がムハ晩年の渾身の大作《スラブ叙事詩》であることもあり、タイトルはミュシャ展となっていますが、会場内の解説プレートではチェコ語表記と併せてムハ(ミュシャ)と記されていました。ミュシャというといかにもフランス風の響きですが、ムハとなると途端に朴訥で温かいスラブの土の匂いがしてくるから不思議。筆者について言えば、ミュシャにはさほど興味ないけどムハにはちょっと興味ある、というところでしょうか(笑)

実際、アールヌーヴォーの画家としてのミュシャには今まで特に関心はありませんでした。しかし、この3月に初めてチェコへ行ったことから、自分の中で「スラブ」への関心が急拡大。4月末に東京へ行ったついでに観てきました。

萩尾望都を感じた…という友人のコメントがなかなか言い得て妙ではないかと思っていたのですが、果たして展示室のトップバッターに掲げられたスラブ叙事詩第1作など、幻想的な雰囲気が確かに萩尾望都っぽい。(本来は、萩尾望都にムハを感じる、と言うべきなのでしょうが…(^^;) ムハ先生、ごめんなさい。)

ムハ(ミュシャ)《スラブ叙事詩》 1 原故郷のスラブ民族(1912)610×810cm

全20点の連作《スラブ叙事詩》は、いずれも幅4〜6m、高さ4〜8mという超大作。堂々たる風格をもつ「歴史画」の相貌です。スラブ人の歴史と伝説をベースに、圧倒的なスケールで構成された作品群は、まさに絵で見る民族叙事詩。フレスコ画を思わせる、ややマットな艶を抑えた画肌が独特で、会場のほの暗い照明と相まって、うっすらとした靄の向こうに映像を見ているような感覚。これだけスケールの大きい作品が所狭しと並んでいると、時空を超えて絵の中の世界を漂うような気分になってきます。同時に、こうした主題の表現において、伝統的な歴史画の手法が20世紀の絵画にもアクチュアリティをもち得ることに新鮮な驚きを覚えました。

そのほか、出世作《ジスモンダ》などアールヌーヴォーの代表作はもちろん、独立を果たしたばかりのチェコスロヴァキアのための仕事など、一般にあまり知られていない作品が多数紹介されており、アールヌーヴォーだけでないムハのダイナミックな画業に触れることができました。

スラブは自分にとって未踏の領域。これから少しずつ探っていきたいと思います。

★ミュシャ展@国立新美術館 〜2017年6月5日まで開催
公式サイトhttp://www.mucha2017.jp/