今年に入ってから北方ルネサンスに関する展覧会が相次いで開かれており、前半期だけで下の3つの展覧会をナビゲートしました。
①クラーナハ展 500年後の誘惑 (国立国際美術館)
②ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで (兵庫県立美術館)
③ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 (国立国際美術館)
②ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで (兵庫県立美術館)
③ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 (国立国際美術館)
北方絵画とは、主に現在のベルギー、オランダ、ドイツあたりの地域で栄えた絵画をさします。ルネサンス期にはイタリアの影響を受けつつ独自の文化的発展を遂げたことから、特にこの地域のルネサンスを「北方ルネサンス」と呼んでいます。
同じルネサンスでも、北方絵画はイタリア絵画と比べて、一般的知名度の点ではマイナーなためか、会期前から大々的に話題を呼んでいた「バベル展」を除いては、“驚くほど空いていた”というのが正直な感想。そのバベル展も、おそらく入場者の関心はブリューゲルの<バベルの塔>1点に集約していたと思われますので、これがなければ似たような入りだったことでしょう。実際、<バベル>の前だけ行列ができていて、まさに「1点豪華主義」の典型を印象づける状況。ヨーロッパ美術における重要性からいえば、他の2つも、もう少し人が入ってもよさそうなものなのですが、かなりコアな美術ファンであるか、あるいは講座の一環として見学に行くなどの外在的機会がなければ、まだまだ自ら足を運ぼうという人の少ない分野だということなのでしょう。
ドイツ・ルネサンスの画家であるルーカス・クラーナハは、かのマルティン・ルターの肖像画を描いた画家、といえば少しは親しみがわくでしょうか?今年2017年は宗教改革500周年ということで、宗教改革とゆかりの深いクラーナハの展覧会が企画されたようですが、当然ながらキリスト教文化の基盤のない日本には、教科書の記述以上のインパクトをもつ出来事ではなく、また同じくドイツの同時代の画家デューラーより知名度も低いためか、集客にはかなり苦戦したようです。
ドイツ・ルネサンスの画家であるルーカス・クラーナハは、かのマルティン・ルターの肖像画を描いた画家、といえば少しは親しみがわくでしょうか?今年2017年は宗教改革500周年ということで、宗教改革とゆかりの深いクラーナハの展覧会が企画されたようですが、当然ながらキリスト教文化の基盤のない日本には、教科書の記述以上のインパクトをもつ出来事ではなく、また同じくドイツの同時代の画家デューラーより知名度も低いためか、集客にはかなり苦戦したようです。
「ベルギー奇想の系譜展」は、作品ラインナップの点で実は「バベルの塔展」とかなり重複するものが多かったのですが(特に版画など)、「バベル展」ほどのキラーコンテンツがなかったためか、やはりバベル展とは比較にならないぐらい空いていました。しかし、ナビしたところ、奇怪な表現に「なじめない」ながらも「人間の業のようなものを感じた」など、表現の向こうに何かを感じ取った方は多かったようでした。この展覧会を見てからバベル展を見た人は、バベル展もより楽しめたのではないかと思います。
似たような分野、似たような構成の展覧会でも、少しのアピールポイントの違いで入場者数は大きく違ってきます。そのこと自体はさして不思議ではありませんが、あらためて日本における西洋美術の受容のあり方を考えさせられた現象でした。
レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロといった、誰もが知っている世界史的巨匠が目白押しのイタリア・ルネサンスに比べると、たしかに北方ルネサンスは地味な感は否めず、また、少々とっつきにくいというか、ある種のわかりにくさがあります。かくいう私も、これまでずっと北方美術には何となく距離感、苦手意識を感じてきました。ヤン・ファン・エイクやヒエロニムス・ボス、ピーテル・ブリューゲルなどごく一部の「メジャーな」画家や作品を除いてあまり接する機会もなく、いまひとつ全体像もつかみにく感じられて、積極的に見ることを敬遠してきた感があります。しかし、今年に入って立て続けに市民対象の美術講座で上記の展覧会を見学先として取り上げたことから、まとまって北方絵画について調べていくうちに、結果として、自分自身がその奥深い魅力と味わいに開眼するきかっけとなりました。
ルネサンス期の北方絵画をとりまく社会的、文化的、政治的状況はひじょうに複雑で、その錯綜した歴史がよけいに難しい印象を与えているかもしれません。表現においては、優美で理想的な美の表現を真骨頂とするイタリア絵画に比べて、主題や人物の描写がどこか滑稽であったり奇怪であったりして、無条件に美しいと感じさせてくれないような、ある種の違和感があります。細部まで徹底された緻密な描写やものの質感が迫ってくるようなリアリティは、北方絵画の大きな特徴ですが、それもまた、一方ではあまりに細密すぎて見るのに疲れてしまう…という不幸な体験と表裏一体ともいえます。
油絵の具(油彩技法の開発は北方絵画の大きな業績です)のなめらかでつややかな色彩は、純粋に目を喜ばせてくれる北方絵画最大の魅力といえますが、そこに到達する以前に謎めいた寓意性や比喩表現が立ちはだかり、印象派のように色彩だけを楽しむというわけにもいかず、結局なんだか込み入ってわかりにくく見づらい絵…という印象になってしまうのかもしれません。
北方絵画は、いきなりこればかりを見ると疲れてしまうかもしれません。が、豊かな風景表現やリアルな人物描写、アイロニーの効いた寓意、対象の質感が際立つ技巧の冴えなど、主題が分からなくても楽しめるツボはあるので、そうしたところから自分なりの見方で少しずつアプローチしていけば、視野が広がり、あらたなアートワールドが開けてくるかもしれませんよ!
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